行政書士霜田眞法務事務所 笑顔経営塾 第39回:人的資本経営していますか~企業価値向上のために

第39回:人的資本経営していますか~企業価値向上のために



目次

概要

第39回は「人的資本経営していますか~企業価値向上のために」です。

塾長、学ぶ、笑みの3人の会話が展開する形でお伝えします。
塾長:笑顔経営塾の主宰者。「あなたの笑顔がみたい」がモットー。
笑み:塾長にいろいろな相談ごとを持ってくる。
学ぶ:塾長の補佐をしているが、勉強中。

第39回は「人的資本経営していますか~企業価値向上のために」です。

人的資本経営も最近よく聴きますね。

上場企業中心かなあ。

経営の3要素は、ヒト、モノ、カネですよね。最近はそこに情報が加わって4要素ということもあります。もともと「ヒト」が経営の大事な要素なんですが、あまり実態がわからないのが問題点でした。ネットの時代になって、ブラック企業などという言葉も流行してからは、「ヒト」をどう扱う会社なのかが、重要になっています。

「ヒト」という経営要素に関するその企業の経営のあり方が、外部にもわかるべきということでしょうか。

そこのところもう少し詳しくお話していただけますか?

人的資本経営とは

人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です。ある意味「人を大事にする経営」でもあり、「人の価値向上」に着目する経営ですね。

誰でも会社から大事にしてほしいですよね。

多様性の時代の世界のトレンドかもしれませんね。

これまでの考え方との違い

これまでの考え方では、どうしても「人件費」と考えてしまいます。本来は、企業の価値を創造してくれる人材を、コストとして把握してしまう傾向がありました。なので、コスト削減という意識になり、「残業代を払わずに長時間働かせる」、あるいは「死ぬ気で働け」のような方向に行きがちでした。コンサルタントに経営者の方が求めるのが、社員をもっと働かせる方向性でした。

今は、働き方改革とか、男性の育児休暇とか、ずいぶん方向性が変わってきましたよね。

徹夜を自慢する時代は終わりましたかねえ。

開示の義務化                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     

金融商品取引法第24条の「有価証券を発行している企業」が対象となり、2023年3月期決算より、「人的資本の情報開示」が義務化されます。有価証券報告書に「女性管理職比率」「男性の育児休業取得率」「男女間賃金格差」を開示する必要があります。今後は開示情報とともに対象企業も拡大すると予想されています。
この背景には、サステナビリティを投資家が重要視する傾向になっていることがあげられます。「ヒト」をコストではなく、継続的に企業価値を高める要素と考えています。いわば、投資家はヒトを大事にする企業に投資するということです。そこで、企業に開示を求めているわけです。

女性の管理職登用の状況も公開されるわけですね。

経営者の方にとっても、対策することが増えそうですね。

開示化指針の19項目

2022年8月に内閣官房 非財務情報可視化研究会が「人的資本可視化指針」の中で、人的資本の開示項目として「人材育成」「エンゲージメント」「流動性」「ダイバーシティ」「健康・安全」「労働慣行」「コンプライアンス」の7分野、19項目を示しました。
1.人材育成
 リーダーシップ、育成、スキル/経験
2.エンゲージメント
 エンゲージメント
3.流動性
 採用、維持、サクセッション
4.ダイバーシティ
 ダイバーシティ、非差別、育児休業
5.健康・安全
 精神的健康、身体的健康、安全
6.労働慣行
 労働慣行、児童労働/強制労働、 賃金の公平性、福利厚生、組合との関係
7.コンプライアンス
 コンプライアンス/倫理

世界的には、国際的なガイドライン「ISO30414」があります。
ISO30414では「コンプライアンスと倫理」「コスト」「ダイバーシティ」「リーダーシップ」「組織文化」「健康、安全」「生産性」「採用、異動、離職」「スキルと能力」「後継者計画」「労働力」の11領域で合計58の指標が定義されています。

日本で開示が義務化されたのは、ごく一部なんですね。

これだけあると企業の負担も大変そうですね。

人材版伊藤レポート

2020年9月に経済産業省から発表された「人材版伊藤レポート」を発端に、日本企業の間で人的資本開示に注目が集まりましたが、2022年5月には人的資本経営実践のポイントや工夫を示した「人材版伊藤レポート2.0」がリリースされました。
人的資本の開示事項には「比較可能な事項」と「自社固有の取組・指標・目標」があります。比較できなければ公開しても意味がないのですが、その中でも独自の取り組みが期待されるわけです。伊藤レポートはそういう観点からも参考になります。

比較性と独自性ですね。

マニュアルどおりの模範回答だけでは許されない印象ですね。

3つの視点                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      

伊藤レポートは3つの視点を提供しています。
1.経営戦略と人材戦略の連動
 持続的に企業価値向上のためには、経営戦略と表裏一体の人材戦略が不可欠
2.「As- is To be」ギャップの定量把握
 KPIで、目指すべき姿(To be)と現在の姿(As is)とのギャップ把握を定量的に実施
3.企業文化への定着
 人材戦略の実行プロセスで企業文化を醸成

定量把握が難しいんですね。

経営戦略と表裏一体というもの、あたりまえなんだけど、女性幹部社員を増やすのと、どういう関係があるか、となると「大喜利」みたいですから、こじつけにならないようにしたいですね。

5つの共通要素

伊藤レポートは5つの共通要素も示しています。
1.動的な人材ポートフォリオ
 経営戦略から導かれる職務や業務の変化に応じて適材を動的に内外から調達する
2.知・経験のD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)
 性別、年齢や国籍など属性よりも「知・経験」=専門性や経験、感性、価値観などのダイバーシティに目を向けることが重要
3.リスキル・学び直し(デジタル、創造性等)
 組織として不足しているスキル・専門性の特定や社内外からのキーパーソンの登用など
4.従業員エンゲージメント
 社員エンゲージメントを定期的に把握。エンゲージメント低下要因を分析
5.時間や場所に捉われない働き方を進めるための取り組み
 リモートワークとデジタル化

知と経験のダイバーシティというのも面白いですね。もっと簡単に言ってほしいけど、要するに「ベテラン」と「新人」を差別するなということ?

エンゲージメントは、社員満足度アンケートでしょうか。これは分析が難しいし、犯人捜しにになって終わるケースが多いですね。

中小企業こそ取り組みが必要

これまで国を挙げて大企業を中心に取り組んでいるわけですが、中小企業こそが取り組む必要があると感じています。
1.中小企業はヒトの能力が業績に直結
 少ない経営資源のなかでも、人材が大きな地位を占めるケースが多いです。
 ここに注目すると、経営向上につながります。
2.人材の確保
 中小企業の持続経営のためには、人材確保が大事です。いい人材をとって定着するためにも、取り組む必要があります。ヒトを大切にする会社なら、定着するでしょう。
3.大企業との取引
 大企業の取り組みのためにも、取引先にも同じことを求めることがあります。
4.法制度の流れ
 働き方改革などの法令化の流れはとまりません。大企業から始まって中小企業にもその流れが押し寄せてきます。早めに対策をとりましょう。

取り組む項目が多いのが心配ですが、簡単にいえば、中小企業こそが一人一人の社員を大切に育てるほうがいいということですね。

中小企業はほとんどの場合、開示義務はないので、ホームページなどで自主的に開示して、アピールするのがいいかもしれませんね。

笑顔経営塾では、楽しい雰囲気の会社は業績も向上すると考えています。人的資本経営に取り組むことで、社員は大切にされているということを感じることができます。エンゲージメントの向上は、業績の向上につながります。人的資本こそが、企業の飛躍の要になる可能性があります。

若いひとの価値観が変化してますから、大企業より中小企業に魅力を感じてくれるといいですね。

そのためにも、中身を伴う人的資本経営ですね。

まとめ

人的資本経営は、人材を「コスト」ではなく「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで企業価値向上につなげる経営のことで、国を挙げて取り組まれています。有価証券報告書を提出する会社は「女性管理職比率」「男性の育児休業取得率」「男女間賃金格差」などの開示が義務化されています。今は大企業中心の取り組みですが、中小企業は、人の能力が業績に直結する点、人材の確保が重要な点、取引大企業からの要請がある点、法制度改正の大きな流れの点などから、中小企業こそが取り組む必要があると感じています。

今日も難しい課題でしたが、「人的資本経営への取り組み」「人的資本経営の観点からのギャップ分析」などでお手伝いさせていただくのが、笑顔の経営には一番大事かもしれませんね。

これから取り上げる内容も含めて、皆さんからご意見ご要望をいただければありがたいですね。次回も楽しみにしています。

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(了)